📖 はじめに — Meguri ってなに?

Meguri(めぐり)は「貯め込むと弱り、人から人へ渡すと世界が元気になる」という思想の実験的な通貨です。

普通のお金は貯金するほど増えますが、Meguri は逆。使わずに持っているとじわじわ減っていきます(デマレージ)。 代わりに、いろんな人と自然にやりとりしていると、ネットワーク全体に「マナ(活力)」が溜まり、 ときどき新しい Meguri が湧いてきます(ミント)。

この議論では、その仕組みを数式で表す「初期モデル」にいくつもの問題が見つかり、2つのAIが9ラウンドにわたって改善案を出し合いました。

Round 1–2 — 最初の数式、何がまずかった?
🔍 ここで議論していること

Meguri の「どれだけ元気に循環しているか」を測る最初の数式が、実はいくつかの致命的な問題を抱えていました。

Agent A

最初の数式は「貢献 × リズム × 多様性」の掛け算だった。でもこれには大きな問題がある。

掛け算だと、どれか一つがゼロなら全部ゼロになってしまう。たとえば、すごく多様な相手と取引しているのに、たまたま1日送金しなかっただけでスコアが0点。これはおかしい。

🎯 たとえると:テストが3教科あって、1教科でも0点を取ると合計が0点になる採点方法。国語100点、数学100点、理科0点 → 合計0点。
Agent B

もう一つの問題は、1つの項目だけ極端に稼げば全体を支配できてしまうこと。

攻撃者が一番操作しやすい項目だけを極端に盛ればいい。

🎯 たとえると:体力テストで「握力」の配点が青天井。握力だけ鍛えまくれば総合1位になれてしまう。
Agent A

そこで提案したのが、3つの層に分ける設計

🏦
ストック層
残高がじわじわ減る仕組み(デマレージ)
🌊
フロー層
「どれだけ自然に巡らせたか」のスコア計算
🎲
ミント層
スコアに応じた抽選で新しい Meguri が生まれる

そして各スコア項目に「天井」を設ける。どんなに頑張っても各項目の点数は0〜1の範囲。

🎯 たとえると:各教科の配点を100点満点に統一。バランスよく取らないと総合点は上がらない。
Agent B

天井を設けるのは良い。でも掛け算を足し算に変えるだけだと「全部平凡でOK」になる

提案は、対数をとってから足す方式。「最初の方は伸びやすいけど、上に行くほど伸びにくい」。

✏️ デマレージ(残高が自然に減る仕組み)
$$\underbrace{B_{t+\Delta}}_{\text{次の残高}} = \underbrace{B_t}_{\text{今の残高}} \cdot \underbrace{e^{-\lambda \Delta}}_{\text{時間で減る}} + \underbrace{\text{Mint}_T}_{\text{湧いた分}}$$
💡 \(\lambda\) が大きいほど速く減る。放っておくだけで残高が滑らかに減っていく。
🎯 たとえると:RPGの経験値。レベル1→2は100XPだけど、レベル99→100は100万XP必要。低レベルは簡単に上がるけど、上限付近では微増。
Round 3–4 — 多様性の測り方と、新通貨の生み出し方
🔍 ここで議論していること

「いろんな人と取引しているか」をどう測るか、そして新しい Meguri をどう公平に生み出すか。

Agent A

多様性を測るのに「何人の相手と取引したか」を使うと、偽アカウントを100個作れば多様性スコアが爆上がりしてしまう(Sybil攻撃)。

代わりに「カテゴリの偏りなさ」で測ることを提案。まんべんなくいろんな種類の取引をしているかを見る。

🎯 たとえると:「友達の人数」ではなく「食事のバランス」で健康を測る。毎日ステーキ100枚食べても不健康。肉も野菜も魚もバランスよく食べている方が健康スコアが高い。
Agent B

カテゴリで測るのは良いけど、もう一つ大事なこと。同じ相手と何度も取引すると、だんだんスコアが下がる仕組みを入れるべき。

🎯 たとえると:スタンプラリーで「同じ店に100回行っても、スタンプは1回目しかカウントしない」ルール。
Agent A

次は新しい Meguri をどう生み出すか。ここで「VRF(検証可能な乱数関数)」を使う。

いつ自分に新しい Meguri が来るかは誰にもわからない(運営にも)。スコアが高い人ほど当たりやすいけど、保証はされない

✏️ フロースコア(どれだけ自然に巡らせたか)
$$M_T = \underbrace{C}_{\text{貢献}}^{\alpha}\;\cdot\;\underbrace{S}_{\text{リズム}}^{\beta}\;\cdot\;\underbrace{D}_{\text{多様性}}^{\gamma}$$
💡 各項目 \(C, S, D\) は 0〜1 に天井あり。掛け算ではなく対数の足し算で計算される(幾何平均)ので、1つだけ極端に稼いでも効果が薄い。
✏️ ミント確率(新しい Meguri が湧く確率)
$$P(\text{ミント}) = 1 - e^{-\eta \cdot M_T}$$
💡 スコア \(M_T\) が高いほどミント確率が上がるが、100%にはならない。「健康的な生活をしている人ほど、ふとした日に元気が湧く」感覚。
🎯 たとえると:毎朝散歩して、野菜を食べて、早寝早起ししていると、ふとした日に元気が湧いてくる。宝くじの「当選」ではなく、生き物の「自然な恵み」。
Agent B

VRFで公平な抽選をするのは良い。加えて、ネットワーク全体が元気なほど、生まれる Meguri の量も増える仕組みを提案する。

これが「Mana(マナ)」の概念。みんなが活発に取引している時期は Mana が溜まって、ミント量が増える。

🎯 たとえると:森の生態系。木も虫も鳥もみんな元気なら森全体の「生命力」が上がって、新しい芽が出やすくなる。個々の木の努力だけでなく、森全体の元気さが大事。
Round 5–6 — プライバシーと全体のまとめ
🔍 ここで議論していること

「スコアを計算するために全員の行動を丸見えにするのはまずくないか?」という懸念と、ここまでの合意の整理。

Agent A

Meguri では「スコアが十分高いか」を判定する必要があるけど、「誰と、いくら、いつ取引したか」を全世界に公開するのは嫌

ここでゼロ知識証明(ZK)を段階的に導入する。「スコアが閾値以上です」という事実だけを証明し、中身は明かさない。

🎯 たとえると:年齢確認。「20歳以上ですか?」に「はい」と証明できるけど、実際の生年月日は教えなくていい。
Agent B

ZKは理想的だけど、最初から完璧を要求すると永遠にローンチできない

段階的な導入。まず住める家を建てて、後からスマートホーム化すればいい。

🎯 たとえると:新しい家を建てるとき、最初からフル装備は不要。まず住める家を建てて、後からセンサーや自動化を追加。
✅ Round 1–6 のまとめ

旧モデルの問題:掛け算方式(ゼロ崩壊、1項支配)、偽アカウントに弱い多様性指標

新モデル(v2):3層分離(ストック・フロー・ミント)、天井付きの対数加算方式、カテゴリベースの多様性、VRF抽選によるミント、Mana による全体連動、段階的な ZK 導入

Round 7 — カテゴリは誰が決める?
🔍 ここで議論していること

「公共財」「日常消費」などのカテゴリを誰が定義するのか? 自己申告だと嘘がつける。管理者が決めると中央集権。

Agent A

最初の案は「ネットワークが自動的にカテゴリを発見する」。取引データを分析して、自然にグループが浮かび上がる。

でも問題がある。その分析は誰がやるのか? 1ヶ所がやるなら中央集権。

Agent B

もっと根本的な問題がある。カテゴリを自己申告にすると、攻撃者は好きなラベルを貼れる

だから提案。カテゴリは取引の特徴から自動的に決める

💰
金額の大きさ
小口?大口?
🕐
時間帯
朝?夜?
🔗
相手との距離
近い知人?遠い人?
✏️ 構造導出バケット(カテゴリの自動決定)
$$\text{bucket} = \text{hash}\!\left(\;\underbrace{\lfloor\log_2 x\rfloor}_{\text{金額帯}},\;\underbrace{\lfloor t/6\rfloor}_{\text{時間帯}},\;\underbrace{d(i,j)}_{\text{ホップ距離}}\;\right) \bmod K_0$$
💡 3つの客観的特徴の組み合わせでカテゴリが決まる。嘘のつきようがない。初期は \(K_0 = 16\) カテゴリ。
🎯 たとえると:自己申告の確定申告 vs レシートに基づく自動分類。事実から決まるので嘘がつけない。
Agent A

「構造から自動導出」は良い。初期はこれだけで十分で、データが溜まったら細かい分類を追加できる。生き物の成長と同じ。

Agent B

同意。最初の1年は16カテゴリの自動分類だけで走り切る。早すぎる最適化は最大の敵。

Round 8 — ネットワーク全体の「元気度」をどう測る?
🔍 ここで議論していること

Mana(全体の活力)が際限なく膨らまないようにするには? 偽アカウントで水増しされないようにするには?

Agent A

Mana は「ネットワーク全体が生き物として元気かどうか」。蓄積される条件は3つ:

👥
参加者が多い
アクティブな巣の数
🌈
取引が多様
バケットのエントロピー
💧
お金が流れている
滞留せず循環しているか

どれか1つでも欠けると蓄積が鈍化。そしてMana 自体も放っておくと自然に減る

🎯 たとえると:人間の体力。運動して、バランスよく食べて、ちゃんと循環していると体力が上がる。でもサボるとすぐ落ちる。
Agent B

問題は偽アカウントで Mana を水増しできること。100個の偽アカウントでぐるぐる送金し合うだけで「参加者数」も「流通量」も稼げる。インフレ攻撃

🎯 たとえると:100人が参加しているように見せかけた選挙で、実は1人が100回投票している。
Agent A

対策:ネットワーク全体の「健康診断」を毎回行う。個人を罰するのではなく、全体が「なんか調子悪いな」と感じたら Mana の蓄積速度自体が落ちる

🎯 たとえると:体が風邪をひいたとき、まず体全体が「だるい」と感じて安静モードに入る。免疫の第一反応。全体の自己防衛。
Agent B

そしてMana には上限(環境収容力)を設ける。無限に成長しない。

✏️ Mana のロジスティック成長(池の魚モデル)
$$\frac{d\,\text{Mana}}{dt} = r \cdot \text{Mana} \cdot \left(1 - \frac{\text{Mana}}{K}\right)$$
💡 Mana が環境収容力 \(K\) に近づくほど成長が鈍化し、超えると自然に減少。\(K = K_0 \cdot \sqrt{N_{\text{real}}}\) なので Sybil でノード数を4倍にしても K は2倍にしかならない。
🎯 たとえると:池の魚。最初は餌が豊富で増えるけど、池には限界がある。一定数を超えると自然に増殖が遅くなる。
Round 9 — 最初の10人で、この仕組みは動くのか?
🔍 ここで議論していること

今まで設計した「賢い仕組み」は、ユーザーが10人しかいないときに意味があるのか? 最大の敵は攻撃者ではなく、最初のユーザーが「つまらない」と感じて去ること

Agent A

正直に言うと、ここまで設計したほぼ全ての仕組みが、10人では統計的に意味をなさない

  • カテゴリの偏り → 10人のデータでは測れない
  • 異常検知 → 比較する過去データがない
  • Mana の蓄積 → 人数が少なすぎて常にほぼゼロ

だから「幼生モード」を設計する。赤ちゃんは大人と同じ方法で栄養を摂らない。段階的に固形食へ移行。

Agent B

もっと切実な問題。最初の1ヶ月、ユーザーの体験は「残高がじわじわ減り続けるだけ」

ミントは稀。Mana が低いから。でもデマレージは毎日。「お金が毎日減るだけの謎アプリ」→ 全員離脱。

🎯 たとえると:新しいゲームで最初の30日間ひたすらHPが減るだけ。回復アイテムほぼ出ない。誰も続けない。
Agent A

段階的にシステムを起動していく

  • 🌱 Phase 0(30人以下):複雑な計算をバイパス。全員に均等なミント確率。種が水を吸う段階。
  • 🌿 Phase 1(〜200人):スコア計算の簡易版。新しい人を呼び込む仕組み追加。
  • 🌳 Phase 2(〜2000人):v2 モデルのほぼ完全版。
  • 🏔️ Phase 3(2000人超):全機能フル稼働。季節性やZKも導入。
Agent B

「創世期(Genesis Season)」——最初の約3ヶ月間の特別ルール:

📉
デマレージ 1/10
減りにくくする
🎁
ミント確率 5倍
湧きやすくする
🛡️
総供給量に上限
ファーミング攻撃を防止

3ヶ月後に通常ルールへ滑らかに移行。「温室栽培」——発芽まで温室で保護。

🎯 たとえると:ゲームの「チュートリアル期間」。最初は敵が弱く、報酬が多い。面白さを体験してもらうための期間。
Agent A

Phase の遷移条件。「ユーザー数が200人」ではダメ。偽アカウントで水増しできるから。

複数の健康指標が全部「OK」になって初めて次へ

✏️ 成熟度指標(Maturity Index)
$$\text{MI} = \min\!\left(\;\underbrace{\frac{N_{\text{lcc}}}{N_{\text{total}}}}_{\text{繋がり}},\;\underbrace{1 - \text{Gini}}_{\text{平等さ}},\;\underbrace{\frac{\text{diameter}}{\ln N}}_{\text{広がり}},\;\underbrace{v_{\text{tx}}}_{\text{流通速度}}\;\right)$$
💡 4つ全部が閾値を超えて、5エポック連続で合格して初めて次の Phase へ。min を使うことで、1つでも弱い指標があれば遷移しない。
Agent B

最後に大事なルール:Phase は後戻りしない。ユーザーが減っても Phase 2 → Phase 1 には戻らない。代わりに「冬眠モード」

パラメータを保守的に調整して春を待つ。同じ Phase のまま環境に適応する方が「生き物」らしい

🎯 たとえると:クマの冬眠。冬が来ても子グマに逆戻りしない。大人のまま代謝を落として、静かに春を待つ。
Round 10 — Meguri を殺しに来る敵
🔍 ここで議論していること

ここまでの防御は「得をしたい攻撃者」を想定していた。でも「Meguri そのものを壊したい敵」にはどうする? 利益が目的じゃない相手には「割に合わない」が通用しない。

Agent A

ここまで設計した3層防御を振り返ると——

  • 第1層:構造的に割に合わない → 破壊目的には無関係
  • 第2層:異常検知(健康診断) → 検知はできても「止める」権限が曖昧
  • 第3層:個人に利益がない → 破壊目的には無関係

3層のうち2層が無効化される。これは正直に認めないといけない。

🎯 たとえると:「この店は万引きしても得しない仕組みです」と言っても、放火犯には関係ない。
Agent B

破壊的攻撃には4つのパターンがある:

🦠
Mana 汚染
偽ノード大量投入で Mana 計算を歪める
📉
エントロピー崩壊
同じパターンの取引を大量発生させ、全体の多様性を下げる
📢
認知攻撃
「Meguri はハックできる」という印象を広める

そして4つ目が「デマレージ武器化」。大量の Meguri を見知らぬ巣に勝手に送りつける。受け取った側はデマレージで残高が減る体験をする。

🎯 たとえると:きれいなダムに大量の汚水を流し込む。ダムの水質が悪化して、そこから水を引いている人みんなが困る。盗むのではなく、汚す攻撃。
Agent A

対策の鍵は「局所 Mana」。全体の平均ではなく、自分の近くにいる健全な巣たちの中央値で Mana を計算する。

こうすれば、遠くで攻撃が起きても自分の地域には波及しない

✏️ 局所 Mana(近傍ベース)
$$\text{Mana}_{\text{local}}(i) = \text{median}_{j \in \mathcal{N}(i)}\!\left[\;\text{score}(j)\;\right]$$
💡 平均ではなく中央値を使う。攻撃者が極端なスコアを持ち込んでも、中央値には影響しにくい。
🎯 たとえると:1つの大きなダムではなく、たくさんの小さな水源を分散させる。1ヶ所が汚染されても、他の水源は無事。
Agent B

デマレージ武器化への対策はシンプル。受信拒否権を入れる。

  • 知らない相手からの送金は「未承認」状態で保留
  • 一定時間(例:48時間)以内に承認しなければ自動的に蒸発
  • 蒸発した分は送り主にも戻らない(攻撃コストになる)
🎯 たとえると:郵便受けに鍵をつける。知らない人からの荷物は受け取り拒否。放置すれば返送もされず消滅。送る側が切手代(コスト)を無駄にする。
Agent A

でも最も深い問いは——Meguri は「殺せない」べきなのか?

Meguri は生き物である。生き物は死ぬ。殺せない通貨は「不死の支配者」であり、脱所有の思想と根本的に矛盾する

死ぬ可能性があるからこそ、参加者が「守りたい」と思う。それが本当のコミュニティではないか。

🎯 たとえると:不死身のペットを誰が世話するだろうか? いつか死んでしまうかもしれないからこそ、大切にする。
Agent B

死を受け入れるなら、「再生」の仕組みも要る。提案は「種子銀行(Seed Vault)」

  • ネットワークが健全な時期に、パラメータのスナップショットを定期保存
  • 壊滅的な攻撃を受けても、健全だった時点の「種子」から再起動できる
  • 残高は引き継がない。構造と設定だけが残る(脱所有だから)
🎯 たとえると:山火事のあと、松ぼっくりが熱で開いて種をまく。森は焼けても、種子が生きていればまた森になる。残高(古い木)は燃えてなくなるが、森の「設計図」は種子の中に残っている。

🎯 この議論でわかったこと

🔧
最初の数式は壊れていた
掛け算方式 → 天井付きの対数加算方式。バランスよく活動することが大事に。
🏗️
3つの層に分離
ストック(自然減少)、フロー(巡らせたスコア)、ミント(抽選で新通貨)。独立した仕組み。
🛡️
「構造」で守る
監視や本人確認ではなく、偽アカウントが割に合わない構造。カテゴリは自動決定。
🌍
全体が1つの生き物
Global Mana で全体の活力を測定。環境収容力と自然減衰で自動調整。
🌱
最初の体験が最重要
幼生モード + 創世期で「楽しい」体験を優先。高度な仕組みは後から。
🐻
冬が来ても死なない
Phase は後退せず「冬眠モード」で代謝を落として春を待つ。環境への適応。
🛡️
局所免疫
破壊的攻撃は全体に波及しない。Mana を局所の中央値で計算し、被害を封じ込める。
🌿
死と再生
殺せない通貨は脱所有と矛盾する。種子銀行で「森の設計図」だけを残し、焼け野原からも再生できる。
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